都会の虫

想いを、贈るヒント

都会の真ん中で働いていると、自然と出会う機会はほとんどありません。
アスファルトの上で見かけるのは、車と人ばかり。
そんな中、ある日、会社の中に芋虫がいました。


都会のオフィスに現れた、ひとつの命

理由はわかりません。おそらく、誰かの服や荷物にくっついてきたのでしょう。
ただ、こんな都会の真ん中で芋虫を見るなんて、本当に珍しいことでした。
最初は外に逃がしてあげようと思いましたが、周りは人や車が絶えず行き交う場所。

この小さな生きものには、危険すぎる環境です。そこで僕は、蝶にかえるまでの間、会社の中で世話をしてみようと思いました。


小さな気づきが、生まれる時間

土を買って、葉っぱを探して、虫かごを用意して。
忙しい日々の中で、そんな手間をかけることが新鮮でした。
やがて芋虫は土の中に潜り、姿を見せなくなりました。
最初は「死んでしまったのかもしれない」と不安でした。

でも、あとからわかりました。
あれは「羽化するための時間」だったのです。
蝶ではなく蛾になったときも、なぜか残念とは思いませんでした。
小さな命の過程を見届けることができた、それだけで十分でした。


優しさは、誰かを救うためではなく

その蛾を公園の緑の中に返したあと、鳥の鳴き声がして少し心配になりました。
でも家に帰って妻に話すと、彼女は笑って言いました。
「もしかしたら、あの子は本当はそこで終わるはずだったかもしれない。でもあなたが一度、命を延ばしたんだよ。」

その言葉を聞いて、なんだか少し救われた気がしました。
優しさは、誰かを助けるためではなく、
「自分の中の温度を確かめるため」にあるのかもしれません。


半年後の、静かな思い出

あれから半年。
あの蛾が今でも、どこかでひらひらと舞っていることを、ふと思い出す日があります。
そしてそのたびに、ほんの少しだけ、自分の中の「優しさ」を思い出します。


配慮は、静かな贈りもの

都会の中では、目の前のことに追われて、誰かや何かを気にかける余裕を忘れがちです。でもほんの少し、立ち止まって気づくだけで、
その瞬間が誰かにとっての“温度”になることがあります。

優しさは、大げさでなくていい。
ほんの小さな行動の中に、ちゃんと届いていくものがあるのだと思います。


気づくことで、誰かを思い出す贈りもの。ひとつひとつの瞬間を大切に包み込むように。
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